私が入会している中小企業家同友会の勉強会で、岩手県同友会会員の報告を聞く機会がありました。その報告者は、味噌醤油製造の老舗である株式会社八木澤商店の河野社長です。陸前高田市に本社のある八木澤商店は、震災の津波ですべてを流されたにもかかわらず、社員全員の雇用を守り、会社の再建に取り組んでいることが注目されて、キー局のテレビ番組でも取り上げられました。
津波で店舗・工場・事務所の全てを失ってしまった中、当時37歳で専務であった河野さんは、9代目社長として就任し、自社の経営理念を『生きる、共にくらしを守る、人間らしく魅力的に生きる』に変えて、会社を必ず再建するという決意をします。
地域全体が壊滅状態となり行政の機能も停止してしまっているため、社員を含め同友会会員で全国から集まってくる救援物資を配るという活動を始めます。また、仲間とどうやって社員の生活を守るかという勉強会を行い、一時休業して雇用保険でつなぐという方法ではなく、雇用調整助成金を利用して、あくまでも雇用を守りながら再建するという方法を選びます。
陸前高田の85%の事業者が被災し、その事業主が一斉に解雇をしたら、会社の再建どころか町自体がなくなってしまうだろうとの結論からです。そして、同友会仲間の経営者が連携をして地域資源を生かした新規事業を生み出し、競って採用を増やし、今では被災前のほぼ同数に雇用が回復しているとのことです。
私はこの報告を聞いて「何のために会社を経営するのか」ということを考えさせられました。社員の生活を守るためということは当然ですが、それ以外にも大切なものがあるということに気付きました。
それは『社会貢献』ということです。
地方経済が疲弊している昨今、地方経済の将来を担っているのは日本中の中小企業だと言われています。地域の中小企業のネットワークを強固なものにして、そのネットワークを利用しながらそれぞれの企業が元気な経営をすることにより、地域が活性化していきます。その結果、その地域に住む社員も幸せになります。このような地域連携こそが中小企業の『社会貢献』ではないかと思います。
当社として今できることは、この地で事業を続けさせていただいているという地域に対する感謝の気持ちを持ち、地域に対する関りをさらに深めていくことかなと思っています。
記:代表取締役社長 水長一彦